一人暮らし初日の深夜の事

やっとの思いで合格して4月から新生活を始める。そこで一人暮らし先の悲惨な物語を、不思議な体験をしたあとに聞かされる。ないも初めての一人暮らしでこんな事にならなくてもと思う。

その日の深夜だった。長距離の移動や荷物の片付け疲れ、また一人暮らし初日という緊張もあったせいか、夕飯と入浴を終えると、すぐにベッドに入った。深く眠りこんでいたはずだったのに、何故かふっと眼が覚める。疑問に思いつつも再び目を閉じようとした私の耳に、かすかな物音が飛び込んできた。「ず……ずず…ず…」と、重い物を引きずるようなそれ。耳を澄ますと、その音は天井から聞こえてくるように思えた。まさか上からなの?

一人暮らしの自分の頭上から

背中がぞくりとした。物音は上の部屋から聞こえてくるらしい。一瞬、二階の住人達を思い浮かべたが、一人暮らしである彼らのところから響いてくるのではなかった。確実に真上の空き室から聞こえてくる。丁度、自分の眠っている頭上。それは、ベッドの頭側から足の間あたりを、引きずるように移動しているかのよう。時折音が止む。しかし、何呼吸か間を置くと、再び動き始めるのである。ゆっくりと繰り返し、一定の速度で行ったり来たり。

一人暮らしで頼りない自分を知る

誰か無断で入り込んでいるのだろうかとも思ったが、すぐに打ち消す。昼間に管理人にあった際、一人暮らしの女性もいるのだから万が一悪戯されないようにと、厳重な施錠をしていると言っていた。それでも侵入する輩はいるかもしれないが、そこまで治安の悪い地域とは聞いていない。どうしようどうしようと悩む間にも、音は同じ場所を往復している。自身もまた一人暮らしで頼りなく、助けを求めるべきかどうかと逡巡しているうちに、それは徐々に小さくなってゆき、やがて消えた。気を失うようにして、私は眠りに落ちていく。

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